私の珈琲はその日によって味が違う。
もちろん「あたりはずれ」はあるし、飲む人の反応も賛否両論。
でもそんな珈琲があってもいいのではないかと私は思うのだ。
その日にはその日の珈琲。
「今日のブレンド」
舞奈にそんな話をしたら
私の珈琲を飲むたびにフムフムと考えこむようになった。
そして時折私の顔を覗き見る。
味の分析でもしているのだろうか?
妙に楽しそうだ。
うちの珈琲は基本的に私の「今日のブレンド」なのだけれど、
やはりいつでも同じ味の安定した一杯を望むお客さんもいる。
そんなお客のために 「舞奈ブレンド」 というメニューも作っておいた。
指定注文すれば、舞奈がいつもと同じ味のコーヒーを淹れてくれる。
彼女なりに実験して辿りついたらしいスッキリ目のオリジナルブレンド。
スプーンで1杯づつキチンと計って淹れるところが実に彼女らしい。
ある意味地味だけれど、誰にでも飲みやすく、安心して頼める1杯だ。
朝。
店を開ける前に3人で珈琲を飲むのがうちの習慣。
その珈琲を淹れるのも、やはり私の役目。
「今日のブレンド」第一号は、「家族」のために。
そんな珈琲があってもいいのではないかと私は思うのだ。
――毒見ではない。
ちなみに。
今日は苦味が強く酸味を押さえたちょっと濃い目の味に仕上がった。
あ、また舞奈がフムフム言っている。
つぶやき声から察するところ・・・「コーヒーの濃さ」と「私の気分」の関係?
どうやら私のブレンド法を彼女なりに分析しているらしい。
妙に楽しそうだ。
一日限定のオリジナル
「今日のブレンド」
そのブレンド法は私しか知らない。
・・・実は適当だ。
>MAINA
――コーヒーのいい香り。
毎朝お店を開ける前に、雪乃がコーヒーを淹れてくれる。
その日最初のコーヒーは、私たちのために。
開店前の静かな店内。
昼間のにぎやかな雰囲気もいいけど
3人だけのこの時間が私は大好き。
テーブルの上にはカップが三つ。
淡いブルーのカップは私のお気に入り。
シンプルだけど小さく透かしのワンポイントが入っている。
地味って言うな。
微妙な曲線のまるっこいカップはリーのものだ。
不安定で今にも転がっちゃいそうに見えるけど、意外と安定して飲みやすい。 らしい。
洗いにくいんだけどね。
黒い焼き物のような、少し無骨なデザインのカップ。
男性が喜びそうなデザインだけど、実はコレが雪乃のお気に入り。
・・・雪乃の趣味は予想しにくい。
でも実際に使っているところを見ると、意外と似合うから不思議。
それぞれのカップにコーヒーが注がれる。
雪乃のコーヒーは飲むたびに味が違う。
最初は味の模索をしているのかと思ったんだけれど、そういう訳でもないみたい。
「その日にはその日のコーヒー」
と、それだけ話してくれた。
・・・そうか。
今日は今日のコーヒー。
今日だけの、今日だけしか飲めない味と香り。
今日の私たちには、今日のコーヒー。
明日には、明日のための新しいコーヒー。
・・・きっとそういうことなんだ。
昨日は少し薄めだけれどマイルドな味だった。
今日は―苦味の強い、濃い目の味。
でも、私はいつも砂糖とミルクを入れるのでこのくらいでちょうどいいかも。
濃い日と薄い日。 雪乃の気分と関係あるのかな?
雪乃の横顔を覗き見る。
・・・・雪乃の表情は分かりにくい。
あ、目が合った。
うん。 いつもより楽しそう・・・な気がする。 機嫌がいいと味が濃くなる・・・のかな?
あ、笑った。
リーはもう飲みきったみたいだ。
早。
クッキーが食べたい?
ん、確かに今日のコーヒーにはケーキよりクッキーが合うかもしれない。
よし。クッキー作ろう。
雪乃の「今日のブレンド」に合わせた「おつまみ」を考えるのが、最近の私のマイブーム。
名付けて「舞奈メニュー」 当然日替わり。
ほんとはもっとお洒落な名前を付けたかったんだけど、
いつの間にかメニューに「舞奈ブレンド」というのが出来てて、それに合わせることに。
・・・・・
なんでお店のメニューに私の名前が・・・ それも2つ・・・
ま、意外と好評みたいだからいいけどね。
今日の「舞奈メニュー」は手作り焼きたてクッキー!
雪乃の「今日のブレンド」とセットがお勧め。
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看板娘のエピソード的なものをやりたくなって、
「マイナーがイイッス」=「看板娘のいる喫茶店」 という設定で小説的なものに挑戦してみた。
なんとなく思い描いた構成では、導入部だけ雪乃の一人称で、三人称で過去を振り返るエピソードに切り替わる・・・
という予定だったんですけどね。
気が付いたらこんな感じ。
ま、いいか。
ちなみに、リーの一人称の予定はありません。
「リーの言いそうなこと」「リーのやりそうなこと」なら何とか書けそうなんですが、
「リーの考えてること」は、私には全く分かりません(ぉ
常連様のおかげで、親の予想を受け付けない娘に育ってくれました(爆)
小説はしょっちゅう読んでいますが、自分で書くとなると難しいものです。
っていうか無理。
こんな短い文でも、無限校正地獄に落ちそうになりました。
・・・やっぱプロってのはすごいね。
つづくかもつづかないかも。